褐色脂肪細胞を燃やせ



褐色脂肪細胞を燃やせ

落としたい脂肪と増やしたい脂肪
ダイエットの分野で最近特に注目を浴びているのが、「褐色脂肪細胞」(以下BAT, Brown Adipose Tissue)と呼ばれるものです。 脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞(BAT)があり、白色は脂肪の貯蔵、褐色は脂肪の燃焼を主な働きとします。 ですから「脂肪を落としたい!」という際の脂肪は白色の方であって、褐色ではありません。BATは暖炉のような働きをするもので、乳幼児には100グラムくらい存在しますが、成人ではその半分くらいに減ってしまいます。このたった50グラム程度のBATの脂肪燃焼効果は恐ろしく、ひとたび活性化されると「3時間で250カロリーを燃焼する」*1との報告があります。 この250カロリーは激しい運動をしている状態で消費されるのでは無く、じっとしていても消費されます。(一般に、体重65KGの男子が1時間自転車を漕ぐと250カロリーが消費されるといわれています。) それ故、このBATの刺激法と増加法が焦点になっているわけです。簡単に考えて、BATを活性化するだけで9時間あたり750カロリー分の脂肪細胞を除去することができる計算です。実のところ、これ以上速やかに脂肪細胞を燃焼するメカニズムは存在しないのです。

脂肪燃焼の真実
こういった研究結果をうけて、「エクササイズで燃やすカロリーは知れているのに、何故エクササイズはダイエットに効果があるのか?」という疑問が解決されたように思います。端的に言いますと、エクササイズはBATを活性化するからです。逆の言い方をすると、ダイエットにおいては、エクササイズはBATを活性化する「一つの手段」でしかないということです。エクササイズ後、代謝が数時間上がったままになりますが、この現象が、エクササイズのダイエット効果そのものであるということです。もちろん、エクササイズはBATをある程度増やす効果もあります。 

BATの簡単な活性法
BATは身体が寒いと感じることで活性化されます。そのため最近では冷水シャワーを浴びる人や水泳を利用する人など、様々な方法が試されています。最も身体に優しい方法としては、手で冷たい缶ジュース等を握ることでしょう。手が冷えたと思ったらそれでBATは活性化されています。数十秒から1分くらいで十分ではないでしょうか?スタンフォード大学では身体(手のひらなど)を水で冷やす装置を開発し、エクササイズ・セットの合間に使用しています。こうすることで身体が「オーバーヒートの危険無し」と感じ、より多くのエネルギー消費を容認するようになるります。結果、大幅なパフォーマンス向上につながります*2。無論、大幅なエネルギー消費アップはダイエットにも有効というわけです。セットの合間には「冷たい瓶を握る」とか、冷水器で手を冷やすなどしてみましょう。 

暖房をつけるのは寒いから
病院での精密検査など身体の断層撮影に使用される特殊な炭水化物にFDGがあります。断層撮影で身体の一部にFDGが吸収されて固まっていると「ここに腫瘍があるな」というふうに発見できるらしいです(・・・想像です)。ところが、このFDGは、BATにも入っていくため「腫瘍とBATを間違えるなよ」と言われているそうです。そこでFDGがBATに入って行かないようにするための条件が探られ、知られています。つまりBATが活性化しなければFDGが吸収されないため、その条件が知られているわけですね。その条件の一つで、室温が24度Cを越えると、このFDGがBATに入って行かないというものがあるそうです。・・・ということは、気温が24度以上になると、エネルギー消費効率が格段に落ちるということです。BATは暖炉ですから、気温が上がるとストップします。そうでなければ熱射病になるわけですね。「暑い、暑い・・・」と言って汗が吹き出ている状態は、脱水になるだけで、脂肪燃焼はストップしています。暑くなったら暖房はオフの原理です。逆に、エクササイズ後のクールダウン、ジム内の冷房は脂肪燃焼を促進します。 

節約遺伝子(倹約遺伝子)
BATの活性化には、体内のとあるセンサー(β3アドレナリン受容体)の活性化を必要としますが、日本人の場合、遺伝子的にこのセンサーがぶっ壊れている確率が、他の人種に比べ異常に高くなっています。そのためBATの機能が損なわれている人も多いのです。この変異した遺伝子は「節約遺伝子」と呼ばれています。平たく言えば、身体に取り込んだカロリーに関してケチな人種であるということです。 この「節約遺伝子」により、進化の過程で食糧難に耐える力は他人種に勝ったのでしょうが、飽食の現代においてはその有用性が疑問視されています。節約遺伝子は1960年代、アメリカのピマ・インディアンの異常な糖尿病率(50%)を解明する過程で発見されたもので、日本人、イヌイット、ピマ・インディアン、一部の北欧人などで共有されており、古代民族の移動の様子を表しているといわれています。 日本人の変異率は約4割、イヌイットでは6割に上ります。このセンサーが壊れている人は熱の産生が少ないですから、寒がりだったり、脂肪が落ち難かったりします。運動量、活動量を増やすしかありません。

余談ですが ・・・
先日ニュースレターで、この節約遺伝子が「日本人が肥満で無いのに糖尿病になる元凶だ」と書きました。確かに現時点ではほぼ100%のコラムでそういう論調です。しかし、受け売りせずに少し深く調査してみると、早計に過ぎることが判明します。
第一に、節約遺伝子は山ほど見つかっており、糖尿病と短絡すること自体ナンセンスです。「相関関係がある」に留めるべきでしょう。最新の研究では、糖尿病のリスク要因とされる遺伝子の中に、節約遺伝子は一つも無かったそうです。
第二に、「節約遺伝子は消費エネルギーを抑えるため、少ないエネルギーで肥満をもたらし、生活習慣病を発生させる」とあります。では何故、節約遺伝子の無い欧米人の方がはるかに肥満出来るのでしょうか? 日本人やアジア人の肥満とはケタが違います。
詰まるところ、「生活習慣病をもたらす肥満」はインスリン分泌量のなせる業であって、節約遺伝子とは無関係なのです。確かに貯蔵脂肪は、ただ存在するだけであらゆる糖尿病のリスク要因となりますが、日本人の糖尿病は肥満体をバイパスして発生しています。
ですから、西欧的な病理解釈は、少なくとも部分的に的外れとなるでしょう。 
ウィキペディアには「日本国内の患者数は、この40年間で約3万人から700万人程度にまで増加(23倍!!)しており、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われる」との記述があります。この数十倍という患者数の急増ぶりは日本人の身体組成の変化(体脂肪率の急増)やストレス激化を原因とするには余りにもかけ離れ過ぎています。グラフが示しているのは「身体を糖尿病にする、直接的で即効性のある要因」の存在です。
アジア人の場合、耐糖能(血糖値を保つ力)はインスリン量では無く、インスリン感受性によって発揮されるよう「進化」しています。
    ・・・ちなみに、これを私が「進化」と考える理由は、インスリンの体内での製造、分泌は大仕事なので、少なくて済む方が優生になると思うからです。霊長類がビタミンCを体内で製造出来ないことしかり。・・・最近では、サルからヒトへの進化において、骨格筋の弱小化が脳へのエネルギー供給増をもたらし、知能の飛躍をもたらしたのであろうといわれています。人間において、脳は身体のエネルギーの実に4分の1を消費します。・・・一般に、知能の進化は、身体能力の進化を簡単に凌駕します(「ペンは剣よりも強し」の亜流)。例えば、百獣の王・ライオンでさえ、武器を擁する人間の敵ではありません。知能が発達すれば、身体能力は最小限でよくなってくるわけです。火を起こせれば、体内の発熱装置や厚い体脂肪は要らなくなります。あらゆる栄養素も体外で合成出来るようになれば、その体内合成能力を失った変異体が、知能へのエネルギー供給増で優生となるでしょう。(そういうわけで、人間の最終進化形態は、いわゆるエイリアン・グレイのような風貌になってしまうのですな(笑)。)
 しかし、インスリンが少ないと貯蔵脂肪が減りますから、本来であれば、飢餓によって自然淘汰されるはずです。これはおかしいですね?そう、ここに来て初めて、節約遺伝子の有用性が、探していたパズルのひとかけらのようにうまくはまるわけです。つまりインスリン節約によって貯蔵脂肪を減らすのと引き換えに、節約遺伝子によって消費カロリーも少なくて済むようセットで進化したわけです。逆に、西欧人で脂肪貯蔵能力が大きいのは、このBATによる発熱が盛んであるということの裏返しでもあります。
 さて、西欧型のメタボは高インスリンから脂肪蓄積を経て発生する弊害ですが、アジア型の場合はインスリン感受性が落ちることによる弊害です。インスリン反応が落ちると、その瞬間から血糖が吸収されず体内を駆け巡ります。そのため肥満を介さずして高血糖による被害が発生するわけです。アジアで糖尿病激増の要因は「インスリン感受性の阻害」この一言です。
 インスリン感受性の上げ方、回復法は人によって異なると思いますが、食事療法であるのは間違いありません。
実際に血糖値を測りながら、自分に合った食事療法を発見するべきです。この辺は遺伝子と糖尿病の重度でパターン(ゼロ糖質食か高炭水化物食か均等食か)が変わってきます。
各人のゲノム解析(遺伝子判別)が出来るようになれば、生まれてすぐの時点で、最適な食事法を選択することが出来るでしょう。

燃えればいいのか?
BATの脂肪燃焼は、身体に「使えるエネルギー」をもたらすタイプのものではありません。一般に体内で「燃焼」と呼ばれている反応は、ガソリンがエンジン内で燃えて車が進むというふうに、何かするための原動力となるものです。ところが、BATにおける燃焼は、石油ストーブのスイッチを入れるようなもので、ひたすら白色細胞を分解して熱を出すだけのものとなります。それ故、脂肪の落ちも直接的で速いのです。この燃焼反応は「脱共役」と呼ばれています。 DNPという薬物は、摂取すると、身体がこの「脱共役」を起こすため、過去にダイエット薬として使用されたことがありました。しかし、脱共役は身体にエネルギーをもたらす前に、熱として消費させてしまう作用であり、量を誤ると体温が上がり過ぎて直ぐに命を落とします。現在でも「コンテストで勝てれば寿命が縮まってもよい」と考える若者は多く、ヨーロッパではDNPの使用が「再燃」しつつあるといいます。犠牲者も後をたちません。とある事例では死後3日経過と推定される女性ボディービルダーの体温が40度以上あったそうです。命を落とさなくても、DNPはれっきとした毒物であり、高熱をもたらします。そのうえ「使えるエネルギー」が不足しますから、力は出ません。絶対に避けましょう。 

ダイエットの方法論 
結局のところ、ダイエットを最後に成功させるのは、他の目標と同じく、我慢強さであり、精神力です。 しかしながら、間違った知識で突っ走ると、健康を一生損ねることになります。まず勉強、そして我慢。この順序を崩さないようにしましょう。 



*1 The Journal of Clinical Investigation by Carpentier et al. 
*2 alumni.stanford.edu/get/page/magazine/article/?article_id=33995

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